高齢者の交通事故被害では、余命年数が争点になる。余命短縮を狙う損保会社と被害者家族との闘い。
2008年8月2日付 週刊東洋経済より抜粋
もしあなたが運悪く交通事故で半身不随になったとしよう。
そして、その加害者が加入していた損害保険会社から、「あなたはあと5年も生きられない。保険金もその分しか払いません」と言われたら、どう思うだろうか。だが、これは現実の出来事なのである。
2年前の2006年7月1日の夜8時。富山市内の県道上で事件は起きた。市内在住の主婦Aさん(当時62)が乗用車を運転していたところ、対向車線の乗用車がセンターラインを越えて突っ込み、Aさんの車に正面衝突した。
懸命な治療のかいあって一命こそ取りとめたものの、脳に障害が残り、あごから下は完全マヒ状態。意識はあるものの口は利けず、手も足も首も動かせない。
Aさんの病状が安定した今年2月、ご主人は加害者に対して、将来の介護費用、逸失利益(事故に遭わなければ得られていた将来の利益の合計額)、慰謝料など計2億6648万円を請求する訴えを起こした。
4月に行われた第1回公判で、加害者側弁護士が出してきた反論書にご主人は目を疑った。「原告両名のような後遺障害のある者の平均余命は4.4年あまりであり、5年を超えることはない」とまで言及されていた。
当然だが、交通事故による後遺障害者の余命をめぐる問題は高齢者だけのことではない。年少者になればなるほど余命に関する損保会社と被害者の主張の隔たりは大きくなる。
しかし、「年少者の場合にはむしろ逸失利益のほうが争点になりやすい」(業界関係者)。逆に、逸失利益があまり高額にはならない高齢者の場合は、余命年数の長さが賠償額の多寡を左右する。
「交通事故 全国弁護士ネットワークの古田兼裕弁護士は言う。「被害者を診察したわけでもないのに健常者よりも長生きできないなどと言うべきではない。代わりに使っている統計データには適切でない環境で介護を受けている者も含まれている。寝たきり者の死因の多くは肺炎だが、良好な介護環境であれば死亡率は大きく改善される。
したがって、寝たきり者でも健常者並みの余命を基準に介護費用を決めるのが当然だ」。
古田弁護士は「余命を健常者並みに認める判例は数多く出されている。最近では生存期間の短縮を認めた裁判例は皆無といってよい」と言い切る。だが、こうした状況を知ってか知らずか、損保会社は算定上の余命年数を短くするように被害者に追る。年間の任意自動車保険による保険金支払は約40万件。その大半は、当事者間の示談交渉で決着している。今後社会の高齢化が進むにつれ、示談交渉という当事者間しか知りえない場に巨額の″払い渋り″が生まれる可能性がある。
もしあなたが運悪く交通事故で半身不随になったとしよう。
そして、その加害者が加入していた損害保険会社から、「あなたはあと5年も生きられない。保険金もその分しか払いません」と言われたら、どう思うだろうか。だが、これは現実の出来事なのである。
2年前の2006年7月1日の夜8時。富山市内の県道上で事件は起きた。市内在住の主婦Aさん(当時62)が乗用車を運転していたところ、対向車線の乗用車がセンターラインを越えて突っ込み、Aさんの車に正面衝突した。
懸命な治療のかいあって一命こそ取りとめたものの、脳に障害が残り、あごから下は完全マヒ状態。意識はあるものの口は利けず、手も足も首も動かせない。
Aさんの病状が安定した今年2月、ご主人は加害者に対して、将来の介護費用、逸失利益(事故に遭わなければ得られていた将来の利益の合計額)、慰謝料など計2億6648万円を請求する訴えを起こした。
4月に行われた第1回公判で、加害者側弁護士が出してきた反論書にご主人は目を疑った。「原告両名のような後遺障害のある者の平均余命は4.4年あまりであり、5年を超えることはない」とまで言及されていた。
当然だが、交通事故による後遺障害者の余命をめぐる問題は高齢者だけのことではない。年少者になればなるほど余命に関する損保会社と被害者の主張の隔たりは大きくなる。
しかし、「年少者の場合にはむしろ逸失利益のほうが争点になりやすい」(業界関係者)。逆に、逸失利益があまり高額にはならない高齢者の場合は、余命年数の長さが賠償額の多寡を左右する。
「交通事故 全国弁護士ネットワークの古田兼裕弁護士は言う。「被害者を診察したわけでもないのに健常者よりも長生きできないなどと言うべきではない。代わりに使っている統計データには適切でない環境で介護を受けている者も含まれている。寝たきり者の死因の多くは肺炎だが、良好な介護環境であれば死亡率は大きく改善される。
したがって、寝たきり者でも健常者並みの余命を基準に介護費用を決めるのが当然だ」。
古田弁護士は「余命を健常者並みに認める判例は数多く出されている。最近では生存期間の短縮を認めた裁判例は皆無といってよい」と言い切る。だが、こうした状況を知ってか知らずか、損保会社は算定上の余命年数を短くするように被害者に追る。年間の任意自動車保険による保険金支払は約40万件。その大半は、当事者間の示談交渉で決着している。今後社会の高齢化が進むにつれ、示談交渉という当事者間しか知りえない場に巨額の″払い渋り″が生まれる可能性がある。
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